ガラスの限界を超える补正力:蛍石レンズ

キヤノンレンズの高画质を支える大切な素材の一つが「蛍石(ほたるいし)」です。フッ化カルシウムの结晶体である蛍石で作ったレンズをガラスレンズと组み合わせることで、色収差を极小に抑えられることは古くから知られていました。しかし、天然の蛍石鉱石は小さく、顕微镜の対物レンズなど小さな光学机器にしか使われていませんでした。イメージングの进化を追及し続けるキヤノンは、この蛍石を写真用レンズへ応用することに着目し、蛍石鉱石を原料に高纯度で大型の人工蛍石结晶を合成する技术を独自に开発。1969年5月、世界で初めて一般消费者向けに蛍石レンズを採用した望远レンズ「FL-F300mm F5.6」を発売しました。
蛍石レンズによる色収差补正の仕组みと効果
被写体の轮郭に色の付いた縁取りのようなものが写っていることがあります。「色収差」と呼ばれ、縁取り状になるほか、像全体に霞がかかったようになる场合もあります。この现象は、被写体のありのままの姿を写すという写真の理想を阻害してしまうため、クリアでシャープな画质の実现には色収差の効果的な补正が欠かせません。

枝の縁部分で紫色の縁のように见えるのが色収差
色収差は、光がガラスの面を通过する际、赤?緑?青など色の波长の违いによって异なる角度で屈折し、色ごとに焦点位置がずれるために発生します。通常は、互いに逆方向に屈折する凸レンズと凹レンズを组み合わせることで、色収差を打ち消します。


ガラス凸レンズとガラス凹レンズを利用した色収差补正
しかし、通常のガラスでは、全ての波长の収差を打ち消すことはできません。残存色収差(二次スペクトル)と呼ばれ、赤など一部の波长で収差が残ります。ガラスの种类によっても波长ごとの屈折率が异なるため、组み合わせ次第で残存色収差を抑えることはできますが、ガラスの性质上の限界があります。ここで活跃するのが蛍石です。蛍石は通常のガラスとは原料自体が异なるため特性に大きな违いがあり、组み合わせることでより効果的に补正ができます。特に、焦点距离が长く、収差の影响が大きい望远レンズで効果を発挥します。


蛍石凸レンズとガラス凹レンズを利用した色収差补正
キヤノンの蛍石レンズは、天然の蛍石を原料にしています。そのためガラスでは得られない低屈折率、低分散特性を持っており、また、赤から緑の波长はガラス同様の分散倾向でありながら、緑から青の波长は大きく分散する异常部分分散という特性を持っています。蛍石の凸レンズと、高分散ガラスの凹レンズを组み合わせることで、残存色収差をも打ち消し、クリアでシャープな高画质レンズを実现します。

屈折と分散
屈折とは、光がガラスなどの物质を通过する际、その境界面で进行方向を変える现象で、その変化の度合いが屈折率です。屈折率は光の色成分(波长)によって异なるため、色ごとに进行方向がずれてしまいます。これを色の分散といい、一定の割合で発生するガラスレンズに対し、蛍石では変则的な割合で発生するため异常部分分散と呼びます。
蛍石レンズの诞生と望远レンズの高画质化
补正の限界を超えて、色収差を极少に抑えられる蛍石レンズ。その诞生は1966年8月にスタートした「キヤノン贵计画」にさかのぼります。より高性能なレンズを作るためには、新たな素材作りから始めなければならない。キヤノンの研究者たちはその强い思いから、カメラレンズ用素材としての人工蛍石结晶製造技术の确立に挑みました。
人工蛍石结晶製造の难しさは、それが结晶であるという点にあります。ガラスは本来、物质の状态を表す言叶です。非晶质という、构成する原子がランダムに固定化している状态なので、热で溶かしさまざまな形状に加工しやすい特性を持っています。一方、蛍石は结晶质。构成する原子が规则正しく配列されなければ结晶になりません。天然の蛍石を粉砕し、不纯物を取り除き、カメラレンズに応用できる大型の蛍石を、原子构造を寸分たがえず规则的に再结晶化させるのは至难の业。真空环境下、1,000℃以上の高温を高精度にコントロールしなければならず、高纯度の大型结晶製造のための装置を一から开発する必要がありました。贵计画スタートから2年后の1968年、キヤノンはこの课题をクリアし、カメラレンズに利用できる大型の人工蛍石结晶の合成に成功しました。

左は天然の蛍石结晶。緑や紫に见えるのは结晶内に含まれる不纯物の影响。中央が、キヤノンが製造する人工蛍石结晶のインゴット。
天然の蛍石は、加热すると幻想的な光を発することから、昆虫の蛍に例えられこの名がついたと言われています。蛍がきれいな水辺でしか生息できないように、蛍石もまた、不纯物のない高纯度な结晶でなければ撮影用レンズとしての光を放つことはできません。
蛍石レンズ製造のもう1つの课题が研磨です。蛍石はガラスよりも柔らかくデリケートなため、ガラスレンズと同様の研磨ができません。そこでキヤノンでは、特殊な研磨技术を开発し、ガラスレンズの4倍以上の时间をかけて研磨することで、翌年の1969年5月、製品化を実现しました。

蛍石レンズを採用した世界初のカメラ用レンズFL-F300mm F5.6(1969年発売)蛍石の光をイメージした緑のラインは、蛍石レンズを採用した証。
数々の困難を乗り越え製品化されたFL-F300mm F5.6は、その鮮明で高コントラストな描写から高い評価を受け、報道など、さまざまな分野で活躍しました。
キヤノンでは、その后も高温真空技术や温度制御技术、研磨技术を进化させ、数多くのレンズに蛍石レンズを採用。今も望远レンズの高画质化を追及し続けています。
蛍石レンズの製造工程
研削、研磨などガラス加工と同様の工程に见えますが、蛍石レンズはすべての製造工程において、ゆっくりと细心の注意を払いながら加工していきます。
1.原材料
蛍石レンズの原材料は天然に产出される鉱石です。

2.粉砕?精製
原材料の蛍石原石を粉砕し、不纯物を取り除いた后、カーボン製のるつぼに詰めます。

3.结晶成长
上部にヒーターを备えた结晶成长装置で1,400℃に加热。原料の蛍石が融解した后、时间をかけ少しずつるつぼを下げていくことで、るつぼの底部から结晶化させていきます。

4.アニール
アニールとは、成长した结晶の内部に生じた歪みを除去する工程です。割れる原因となる歪みは、融けない程度の高温まで加热した后、数週间以上の长い时间をかけて室温まで冷ますことで取り除きます。

5.切り出し?粗加工
表面の不要な部分を削り、レンズの大きさに合わせて粗加工していきます。また、结晶の内部を検査して、不具合がないかを确认します。

6.研削
上面、下面を球面状に研削して、スリガラス状のレンズの形にしていきます。

7.研磨
研磨剤を凝集したペレットで、表面を半透明にし、仕様の寸法に合わせ込みます。最后に特殊な研磨剤を用いて表面の细かいキズを取ります。

8.蒸着
大気圧の100万~1亿分の1という高真空状态の中で蒸着材料を加热蒸発させて、研磨を终えたレンズに薄膜を形成します。

9.完成
干渉计を用い精度を検査。熟练の技术者が确认し、合格したものだけが、レンズ组み立て工程に届けられます。

蛍石レンズ搭载レンズ(2021年5月现在)
キヤノンがFL-F300mm以降これまでに製品化した、蛍石レンズ搭载レンズは39本。蛍石レンズは色収差補正だけではなく、製品の軽量化や小型化にも貢献するため、大型の望遠レンズに積極的に採用されています。
スポーツ、报道などの分野で活跃するプロから、野鸟、鉄道、飞行机などの撮影を趣味とするハイアマチュアまで、超望远での高画质を求める多くのフォトグラファーに爱用されています。

RF600mm F4 L IS USM(2021年発売)
関连情报:キヤノンオプトロン